日経・朝日がAI検索「Perplexity」を提訴 AIとニュースの新しい争いをやさしく解説
公開日:2025-11-17 更新日:2025-11-17
1. 状況(今なにが起きている?)
- 2025年8月26日、朝日新聞社と日本経済新聞社(日経)は、米AI企業 Perplexity AI が提供する検索サービス「Perplexity(パープレキシティ)」を相手取り、東京地方裁判所に共同で訴えを起こしました。
- 訴えの内容は、「著作権侵害行為の差し止め」と「それぞれ22億円(合計44億円)の損害賠償」を求めるものです。
- その少し前の8月7日には、読売新聞グループ3社も同じくPerplexityを訴えており、日本の大手新聞3社すべてがAI企業に法的措置を取るという、非常に大きな出来事になっています。
Perplexity は、質問を入力するとネット上の記事などを自動で集め、AIがまとめて答えを返してくれる「AI検索エンジン」です。普通の検索よりも「答え」が先に出てくるサービスだとイメージするとわかりやすいでしょう。
2. 原因(なぜ揉めているの?)
新聞社側が主張しているポイントを、かんたんに言い直すと次のようになります。
勝手に記事をコピーされている
- Perplexityが、朝日・日経のサーバーにある記事を、許可なく大量にコピーし、自社サーバーに保存していたとされています。
「お断り」の設定を無視された疑い
- 新聞社側は、robots.txt という仕組みを使って「このサイトのデータはAI学習などに使わないでください」という意思表示をしていたと説明しています。
- それにもかかわらず、Perplexity側がこの設定を無視して情報を集めていた、と主張しているのです。
有料記事や提携記事までタダで使われている疑い
- 紙の新聞や有料会員だけが読める記事、他社と共同配信している記事なども、無断で使われているとしています。
新聞社側は、こうした行為が「著作権侵害」や「不正競争」にあたり、自分たちのビジネスを脅かしていると訴えているわけです。
3. 問題定義(何が問題なのか)
この訴訟で問われているポイントを、生活者の目線で整理するとこうなります。
「取材にお金をかけた記事」がタダで使われるのはアリか?
新聞社は、記者の給料や取材費を払って記事を作っています。その記事が、許可もお金もなくAIサービスに使われ、AI側だけが儲かるのは公平なのか、という問題です。「サイトに貼った注意書き(robots.txt)」に法的な力はあるのか?
- 「このサイトはクロール(自動収集)しないで」という合図を無視しても、法律的に問題になるのかどうか、日本ではまだはっきりした判決がありません。
- この裁判は、そこに初めて具体的な答えを出す可能性があります。
AIの答えが間違っていたとき、責任は誰が負うのか?
- 新聞社側は、Perplexityが自社の記事を元にしながら、事実を誤解させる回答を出すことがあり、それが新聞社の信用を傷つけていると指摘しています。
ニュースビジネスそのものが成り立たなくなるリスク
- 報道機関が十分な収入を得られない状態が続くと、地方取材や調査報道が削られ、結果として市民が質の高いニュースにアクセスできなくなる危険があります。
4. 予測(今後どうなるか)
① 裁判は長期戦の可能性大
- 著作権やAIが絡む裁判は、海外でも数年単位の長期戦になっています。
- 今回の訴訟も、すぐに白黒がつくというより、何年もかけて判例が積み上がっていくタイプの争いになると見られます。
② 和解・ライセンス契約に落ち着く可能性
- Perplexityは、海外の一部メディアとはすでに収益分配やライセンス契約を結び始めています。
- 日本でも、
- 一部はライセンス契約
- 一部は利用禁止
という形で、「どのコンテンツを、いくらで、どう使うか」の線引きが進む可能性があります。
③ 法律やルールづくりが加速
- 文化庁や政府は、「AIと著作権」に関する考え方やチェックリスト、AI事業者向けガイドラインなどを整備し始めています。
- 日本新聞協会などの業界団体も、robots.txt の尊重や法整備の加速を政府に求めています。
- この訴訟は、そうした議論に具体的な方向性を与える「試金石」になるでしょう。
5. 対策(会社として・私たちとして)
5-1. 会社・組織としてできること
自社サイトの「AI対策」を見直す
- robots.txt やアクセス制限の設定を確認し、「学習OK/NG」をはっきり示す。
- 不審な大量アクセスがないか、ログを継続的にチェックする。
利用規約・著作権表示の明確化
- 「AI学習への利用は事前許諾が必要」など、自社ポリシーをわかりやすく掲示する。
業界団体や専門家と連携
- 新聞協会や業界団体の声明・ガイドラインを参考にしつつ、自社だけで抱え込まない。
AIとの“共存モデル”づくり
- 全面拒否か全面解禁かではなく、
- 一部コンテンツは有料ライセンス
- 一部はAI向けに最適化した要約を提供
など、ビジネスとして成り立つ形を模索する。
- 全面拒否か全面解禁かではなく、
5-2. 私たち一人ひとりができること
AIの答えは「出典」を必ず確認する
- PerplexityなどのAI検索が出してくる答えは便利ですが、「どの記事を元にしているのか」のリンクも確認し、重要な話は元の記事にあたる習慣をつけましょう。
ニュースを“ただ乗り”しない
- 気に入った記事は、公式サイトで読む・紙の新聞やデジタル版を購読するなど、できる範囲で「対価を払う」ことが、質の高い報道を支えることにつながります。
AIで得た情報を、そのまま拡散しない
- SNSなどで拡散するときは、「これはAIの要約である」「元記事はこちら」といった形で、誤解や偽情報を生まない工夫が大切です。
6. 影響(私たち・社会にどう影響するか)
ニュースの質と量にかかわる問題
- 報道機関が適切な収入を得られなくなれば、地方取材や調査報道が削られ、結果として「知るべき情報」が市民に届きにくくなる危険があります。
AIサービスの使い勝手が変わる可能性
- 著作権ルールが厳格になると、AI検索で読めるニュースの範囲が狭くなったり、一部が有料化したりするかもしれません。
- その代わり、「どの情報源を使っているか」がより明確になり、信頼性は上がる可能性もあります。
日本発のルール作りが世界に影響する可能性
- 日本の大手新聞3社が1つのAI企業を相手にそろって動いた例は世界的にも注目されており、今後の国際的なルール作りにも影響しうると見られています。
7. 株価への影響
- 今回訴えている朝日新聞社、日本経済新聞社(Nikkei, Inc.)、そして先に提訴した読売新聞グループ本社はいずれも非上場企業で、株式市場には直接は上場していません。
- 一方、Perplexity AIも未上場のスタートアップ企業で、日本の証券取引所には上場していません。
そのため、「このニュースが出たから特定の株価が急落した」といった、わかりやすい変動は起きにくい案件です。
ただし、投資家は
- 「生成AI企業は、きちんと著作権料を払うビジネスモデルなのか」
- 「ニュースメディアはAI時代でも稼げる仕組みを作れるのか」
といった点を注視しており、中長期的にはAI関連銘柄やメディア関連銘柄の評価にじわじわ効いてくるタイプのニュースと言えるでしょう。
8. 今後の見通し(「落ち着く」までどれくらいかかりそう?)
あくまで見通しですが、おおまかに次のような時間感覚が想定されます。
短期(〜2年ほど)
- 日本の裁判は始まったばかりで、判決が出るまで時間がかかります。
- 海外では、ニューヨーク・タイムズ vs OpenAI や、Dow Jones/Reddit vs Perplexity など、同種の裁判が並行して進んでおり、その途中経過が日本でも参考にされます。
中期(2〜5年)
- 文化庁のガイダンスやAI基本計画など、政府レベルのルール作りが進み、
「ここまではOK」「ここから先は許諾が必要」
というラインが徐々に明確になっていくと考えられます。 - その過程で、新聞社とAI企業との間で、個別にライセンス契約や和解が結ばれていく可能性が高いでしょう。
- 文化庁のガイダンスやAI基本計画など、政府レベルのルール作りが進み、
長期(5年〜)
- 最終的には、
- 「きちんと対価を払うAI企業」
- 「AIとうまく付き合うメディア企業」
だけが生き残る形になり、今とは違うバランスでニュースとAIが共存する社会になっていくと考えられます。
- 最終的には、
9. 同様の事例との比較
日本国内
- 読売新聞グループ vs Perplexity(2025年8月7日提訴)
- 内容:Perplexityによる記事の無断利用に対し、利用差し止めと約20億円超の損害賠償を求めた訴訟。
- 今回の日経・朝日とほぼ同じ構図で、「有料記事タダ乗り」への問題意識を共有しています。
海外の主な事例
Dow Jones/New York Post vs Perplexity(米国)
- ウォール・ストリート・ジャーナルなどを持つDow Jonesが、Perplexityによるニュース記事の無断利用を理由に提訴。
BBC vs Perplexity(英国)
- BBCが、自社コンテンツを無断で学習・再利用しているとして、Perplexityに法的措置をちらつかせて警告。
Reddit vs Perplexity(米国)
- SNS「Reddit」が、ユーザー投稿を大規模にスクレイピングされたとしてPerplexityらを提訴。
ニューヨーク・タイムズ vs OpenAI/Microsoft
- 大手AI企業に対し、「記事を無断で学習に使われた」として訴えた裁判で、核心部分の著作権侵害の主張が審理続行となっています。
こうした流れを踏まえると、今回の日経・朝日 vs Perplexity訴訟は、**「世界的なAIとメディアのせめぎ合いの、日本版の一つ」**と位置づけられます。
10. まとめ
- 2025年8月、朝日新聞社と日本経済新聞社が、AI検索サービス「Perplexity」を著作権侵害などで東京地裁に共同提訴しました。読売新聞に続き、日本の大手新聞3社すべてが同じAI企業を訴えている状況です。
- 問題の本質は、「お金と時間をかけて作られたニュース記事を、AIがどこまで自由に使ってよいのか」、そして**「そのルールを誰がどう決めるのか」**という点にあります。
- 裁判は長期戦になりそうですが、その途中で
- ライセンス契約や和解
- 政府・業界によるガイドラインや法改正
が進み、AIとニュースの新しい「共存モデル」が形になっていくと考えられます。
- 私たち一人ひとりにできることは、
- AIの答えの元になった記事を確認する
- 良質なニュースには、できる範囲でお金を払う
- AIの要約だけを鵜呑みにして拡散しない
という、シンプルだけれど大事な行動です。
AI時代のニュースのかたちを決めるのは、裁判所だけではありません。
**「情報をどう受け取り、どう支えるか」**という、私たち一人ひとりの選択も、ゆっくりと、しかし確実に未来を変えていきます。