2024年KADOKAWAサイバー攻撃をやさしく解説
公開日:2025-11-16 更新日:2025-11-16
2024年6月、出版社KADOKAWAと動画サービス「ニコニコ動画」などを抱えるKADOKAWAグループが、大きなサイバー攻撃を受けました。
ニュースでは何度も取り上げられましたが、「結局なにが起きたの?」という方も多いと思います。
ここでは、中学生やご高齢の方でもイメージしやすいように、できるだけやさしい言葉で整理します。
1. 状況(いつ・なにが起きたのか)
- 発生時期:2024年6月8日 未明
- 攻撃を受けた先:
- 動画サービス「ニコニコ動画」「ニコニコ生放送」など
- KADOKAWAの公式サイト
- 通販サイト「エビテン(ebten)」
- 社内の業務システム(本や雑誌の製造・物流、会計など)
この攻撃によって、KADOKAWAグループのデータセンターにある多くのサーバーが使えなくなり、
ニコニコ動画をはじめとするサービスが長期間停止しました。
- ニコニコ動画は、大幅に機能を絞った**「仮のサービス」を経て、
おおよそ2か月後の8月5日に本格再開**となりました。 - 本や雑誌の印刷・出荷にも遅れが出て、本が店頭に並ぶタイミングがずれたり、
電子書籍の配信が遅れたりしました。
2. 原因(なぜ起きたのか)
2-1. ランサムウェア攻撃とは?
今回の事件は、「ランサムウェア」というウイルスによるサイバー攻撃でした。
- ランサムウェアとは
- パソコンやサーバーの中のデータを勝手に暗号化(カギをかける)してしまう
- 「元に戻してほしければお金を払え」と脅す
- 現代の「デジタル人質事件」のようなもの
攻撃を行ったのは、「BlackSuit(ブラックスーツ)」という海外のハッカー集団とされています。
2-2. 侵入のきっかけ
詳細はすべて公表されているわけではありませんが、セキュリティ企業などの分析からは、
- 社員あての**不審なメール(フィッシングメール)**などをきっかけに
- 社内ネットワークに侵入され、
- データセンター内のサーバーにランサムウェアをばらまかれた
といった流れが指摘されています。
攻撃者はデータを暗号化するだけでなく、約1.5テラバイト分のデータを盗み出し、
「身代金を払わなければ公開する」と脅したとされています。
3. 問題定義(何が問題なのか)
今回の事件で、特に重要な問題は次の4点です。
多くのサービスが一気に止まってしまったこと
- 1社・1つのデータセンターに、
動画サービス・通販・出版の基幹システムなどが集中的に置かれていたため、
一度攻撃されると広い範囲が同時に止まってしまいました。
- 1社・1つのデータセンターに、
「止まっているあいだに何もできない」こと
- 一見、動画サイトが止まるだけのように見えますが、
実際には、本の製造・出荷、売上や経理処理など、
会社の「血管」にあたる部分も止まってしまいました。
- 一見、動画サイトが止まるだけのように見えますが、
個人情報の流出
- 作家やクリエイター、取引先企業の担当者、
子会社ドワンゴの従業員、通信制高校の生徒・保護者など、
多くの個人情報が盗まれたと発表されています。 - 住所・名前・連絡先・契約書などが含まれていたとされ、
関係者の安全やプライバシーに長期的なリスクが生まれました。
- 作家やクリエイター、取引先企業の担当者、
「日本全体のサイバー防御の弱さ」が浮き彫りになったこと
- デジタルサービスに頼る社会になっているのに、
会社側の体制や人材育成が追いついていない現実が、改めて見えてきました。
- デジタルサービスに頼る社会になっているのに、
4. 予測(今後どうなるか)
今後、同じようなサイバー攻撃は、むしろ増えていくと考えられています。
- 狙われやすい分野
- 映像・ゲーム・出版など、人気コンテンツを持つ企業
- 大量の個人情報を持つ企業(通信、流通、金融、医療など)
- 狙い
- 身代金(お金)を取る
- 情報を売る、あるいは別の国や組織のために利用する
また、
- 「サービスが止まる」だけでなく
→ 「個人情報をバラまくぞ」という脅しもセットになるのが最近の傾向です。
企業は今後、
**「攻撃されることを前提に、どれだけ早く復旧できるか」**という観点で、
システムや組織の見直しを求められるようになります。
5. 対策(会社として・私たちとして)
5-1. 会社としての対策
KADOKAWAグループは、今回の事件を受けて次のような対応を公表しています(一部要約)。
- 専門家を交えた調査チームの設置
- システムの再設計・セキュリティ強化
- 被害にあった可能性のある人への連絡とサポート
- 再発防止策の検討・実行
一般的に、企業側が取り組むべき対策は、次のようなものです。
バックアップ(予備データ)の強化
- ネットワークから切り離した場所にもバックアップを置く
- 「攻撃されても、最悪そこから復元できる」状態を作る
ネットワークの分割
- ひとつの侵入で全体が止まらないよう、
システムを「部屋ごと」に分けて、行き来を厳しくする
- ひとつの侵入で全体が止まらないよう、
メールやID・パスワードの管理
- 不審なメールを見分けるための社員教育
- 多要素認証(IDとパスワード+ワンタイムコードなど)の導入
インシデント対応の訓練
- 「攻撃された」という想定で、
連絡体制や記者会見、復旧の手順を事前に練習しておく
- 「攻撃された」という想定で、
5-2. 私たち一人ひとりができる対策
サイバー攻撃そのものは企業が受けますが、
被害を受けるのは利用者や取引先である私たちでもあります。
私たちが日ごろからできる対策は、例えば次のとおりです。
- サービスのパスワードを使い回さない
- できるところは二段階認証(2FA)をオンにする
- 怪しいメールやSMS(宅配便・銀行・携帯会社を名乗るものなど)を開かない
- 企業から「情報流出の可能性がある」と案内が来たら、
- その内容をよく読み、
- パスワード変更やクレジットカードの再発行など、必要な対応をとる
6. 影響(私たち・社会にどう影響するか)
6-1. 生活への直接的な影響
- ニコニコ動画や関連サービスを日常的に使っていた人は、
長期間サービスが使えない状況になりました。 - 本や雑誌の発売が遅れたり、電子書籍の配信が遅れたりしました。
- 通信制高校など、教育サービスにも影響が出たとされています。
6-2. 個人情報漏えいの影響
個人情報が漏れてしまうと、次のようなリスクがあります。
- なりすましや、迷惑メール・詐欺電話の増加
- 住所や名前が知られることによる、ストーカー行為などの心配
- 「どこまで漏れたのか分からない」という不安が長く続く
特に、未成年の生徒やその保護者の情報が含まれていた可能性があるため、
社会的な問題としても重く受け止められています。
6-3. 社会全体への影響
- 「サイバー攻撃はニュースの中だけの話ではない」
→ 動画サイトやゲームだけでなく、出版・教育・商取引など、
私たちの生活のあらゆる場面がネットに依存していることがはっきりしました。 - 企業はもちろん、自治体・病院・学校なども含めて、
日本全体でサイバーセキュリティを底上げする必要性が強く意識されるようになりました。
7. 株価への影響
サイバー攻撃は、「会社の信頼」と「将来の利益」への不安を生みます。
そのため、株価にも大きな影響が出ました。
- システム障害が長引き、有価証券報告書の提出を延期すると発表した時点で、
株価は一時10%以上下落し、年初来安値を更新しました。 - 事件発生前と比べると、7月初めまでに20%を超える下落となったとの分析もあります。
- その後、サービスの再開や、決算説明で影響の全体像が少しずつ示されるにつれて、
株価は徐々に落ち着きを取り戻していきましたが、
「サイバー攻撃リスクは株価にも直結する」という事実が改めて意識されました。
8. 今後の見通し(回復までの時間)
8-1. システム面の回復
- ニコニコ動画などのサービスは、約2か月で再開にこぎつけましたが、
それでも完全復旧までは時間がかかるとされています。 - システムを安全な形で作り直す必要があるため、
「とりあえず動けばいい」ではなく、
再発防止を織り込んだ長期的な復旧計画が求められます。
8-2. 信頼の回復
- 一度失われた「安心感」や「信頼」を取り戻すには、
システムの復旧以上に時間がかかります。 - 今後数年単位で、
- 情報漏えいへの補償
- セキュリティ体制の改善状況の説明
- 新しいサービスや価値の提供
などを積み重ねながら、ゆっくりと評価が戻っていくと考えられます。
9. 同様の事例との比較
2024年には、KADOKAWA以外にも、国内で複数の企業がランサムウェア攻撃を受けています。
たとえば、
- 大手スーパーチェーン「イズミ」では、
2024年2月のランサムウェア攻撃で数百万人規模の個人情報漏えいの可能性が生じ、
会計処理ができずに決算発表を延期する事態となりました。
共通して言えるのは、
- 「売上が立っていても、システムが止まると決算が出せない」
- 「サイバー攻撃は“IT部門だけの問題”ではなく、経営全体・社会全体の問題」
という点です。
KADOKAWAのケースは、
「エンタメ企業への攻撃でも、ここまで社会的な影響が広がる」ことを示した
象徴的な事例だと言えます。
10. まとめ
最後に、ポイントを整理します。
KADOKAWAグループは2024年6月、大規模なランサムウェア攻撃を受け、
ニコニコ動画をはじめ多くのサービスや社内システムが長期間停止した。攻撃者はデータを暗号化するだけでなく、約1.5TBもの情報を盗み出し、
公開をちらつかせて身代金を要求したとされる。作家・クリエイター・従業員・生徒など、多くの個人情報が漏えいし、
関係者の生活や心の安心に長期的な影を落とした。株価は一時的に大きく下落し、「サイバー攻撃リスクは企業価値にも直結する」ことが
改めて意識されるきっかけとなった。企業側は、バックアップ・ネットワーク分割・社員教育・訓練など、
実効性のある対策を継続的に打ち続ける必要がある。私たち一人ひとりも、パスワード管理や怪しいメールへの注意など、
「自分の身を守る基本動作」を心がけることが重要。
サイバー攻撃は、もはや映画やドラマだけの話ではありません。
停電や地震と同じように、「もし起きたらどうするか」を社会全体で考える時代になりました。
今回のKADOKAWAの事件をきっかけに、
企業も利用者も、それぞれの立場で備えを進めていくことが求められています。