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2025年11月のクラウド電子カルテ障害をやさしく解説


公開日:2025-11-26 更新日:2025-11-26

1. 状況

  • 発生日:2025年11月15日(土)
  • 時間帯:お昼すぎの12:15ごろから15:55ごろまで、約3時間40分停止
  • 場所:株式会社EMシステムズのクラウド版電子カルテ(MAPsなど)を使っている全国の医療機関
  • 何が起きたか
    • 電子カルテにログインできない
    • 途中で動かなくなる
    • 受付・診察・検査・会計・オンライン診療などが広く止まる

その結果、

  • 待合室での待ち時間が大幅に伸びる
  • 会計ができず、「今日は後日精算で」「一時預かりで…」などの対応が発生
  • 一部では、予約の取り直しや、検査の延期も起きました

2. 原因

会社の説明をまとめると、今回の原因は**「ネットワークの渋滞」**です。

  • 電子カルテのデータセンターと病院・クリニックをつなぐインターネット回線に、非常に大きな負荷がかかった
  • 回線を提供している大手通信事業者側の機器で、本来入れておくべき設定が抜けていた
  • そこに、電子カルテとは別の「大量の通信」が一気に流れ込んだ
  • 結果として、回線がパンク状態になり、電子カルテにつながらなくなった

ポイントは、

  • サイバー攻撃ではない
  • 患者さんの個人情報が外部に漏れた形跡はない

という点です。


3. 問題定義(何が問題なのか)

今回の出来事から見えてきた「本当の問題」は、次のような点です。

  1. 1社のクラウドと1本の回線に頼りすぎていた

    • 多くの医療機関が同じクラウド電子カルテと回線に依存
    • そこが止まると、全国で一気に診療がまひしてしまう
  2. 「止まったときどうするか」の準備が足りない

    • 紙での受付や、簡易的なメモの運用など
    • 一時的な運用ルール(BCP:事業継続計画)が十分に整備されていなかった医療機関もあった
  3. 情報共有が遅く、わかりにくかった

    • 現場のクリニックからは「FAX1枚だけの連絡で説明が足りない」といった声も出ている
    • 患者さんにも、「何が起きているのか」が伝わりにくかった
  4. 「医療DX」の信頼の土台が揺らぐ

    • 政府は2030年までに電子カルテの普及を進めようとしています
    • その一方で、「止まったらどうするのか」という不安が強くなりました

4. 予測(今後どうなるか)

今後の流れとして、次のような変化が起きると考えられます。

  1. クラウド電子カルテの「強靱化」競争が進む

    • 通信回線を二重化・三重化する
    • 別のネットワーク経路に自動的に切り替える仕組みを強化
    • 回線事業者との連携や監視体制を見直す
  2. 「止まっても診療を続ける」運用の見直し

    • 紙の問診票や、最低限の記録方法をあらかじめ用意
    • 障害発生時の連絡手順・役割分担をマニュアル化
    • 定期的な訓練(停電訓練のIT版のようなもの)の実施
  3. 行政によるガイドラインやチェックも強化

    • 病院情報システムの標準化や更新に関する会議で、 「クラウドの障害を前提にした設計」が議題になる可能性が高い
  4. 患者側でも、「少し待たされるかもしれない日」が増える

    • 障害そのものは短時間でも、その後の予約変更や混雑がしばらく続くことがあります

5. 対策(会社として・私たちとして)

5-1. 会社・医療機関が取るべき対策

  • 通信回線・データセンターの多重化
    • 1社の回線・1つの経路に頼らない設計にする
  • 障害時の「紙運用」をあらかじめ決めておく
    • 受付方法、カルテの仮メモ、会計の一時対応などを具体的に
  • 患者・利用者への情報発信を早く・わかりやすく
    • ホームページ・X(旧Twitter)・院内アナウンスで状況説明
  • ベンダーへの「質問リスト」を持つ
    • 「障害が起きたとき、どれくらいで復旧できる設計になっていますか?」
    • 「バックアップの回線やサーバーはありますか?」
    • などを、導入前・契約更新時に必ず確認する

5-2. 私たち市民ができること

  • お薬手帳や健康情報を、手元にも残しておく
    • 電子カルテが見られなくても、最低限の情報が伝えられるように
  • 待たされても「今日はそういう日かもしれない」と受けとめる心構え
    • 現場の医療スタッフも混乱していることを理解する
  • かかりつけ医に、BCP(止まったときの対応)をさりげなく聞いてみる
    • 「もしシステムが止まったら、どういう流れになりますか?」と聞くことで、 医療機関側の意識向上にもつながります

6. 影響(私たち・社会にどう影響するか)

6-1. すぐに出る影響

  • その日の診療が混乱し、患者さんの待ち時間が伸びる
  • 会計のやり直しや、後日精算が発生する
  • 検査や手術の日程がずれ込むこともあり得る

6-2. 中長期的な影響

  • 医療現場での「クラウドへの信頼」が問われる
  • 医療機関がベンダーを見直したり、複数システムを組み合わせる動きが出る
  • 行政・業界団体が、新たなルール作りやチェックを進める可能性がある

電子カルテ自体は、ミスの減少・情報共有・在宅医療の支援など、多くのメリットがあります。
今回のような障害をきっかけに、「デジタルをやめる」のではなく、「止まっても大丈夫なデジタル」にしていくことが大切です。


7. 株価への影響

電子カルテのクラウドを提供しているEMシステムズ(証券コード4820)は上場企業です。

  • 障害当日には、投資家掲示板で
    • 「また電子カルテがつながらない」
    • 「病院・薬局に迷惑がかかりすぎる」 といった厳しい声が多数投稿されました。
  • 一方で、アナリストレポートでは、
    • 調剤システムでの強み
    • クラウド型ビジネスモデルの拡大 などを背景に、「企業としての成長余地はある」と評価されています。

つまり、

  • 短期的には「信頼性」への不安で株価にマイナス要因
  • 中長期的には、「どこまで再発防止策を打てるか」で評価が変わる

という状況です。

※投資は自己責任であり、本記事は投資の勧誘ではありません。


8. 今後の見通し(回復までの時間)

8-1. システムそのものの回復

  • 今回の障害は、同日中に復旧しています
  • 通信回線の設定見直しや、監視の強化などは、比較的短期間で進められると考えられます

8-2. 信頼の回復

  • 医療機関との関係修復:
    障害の詳細な説明・再発防止策・補償のあり方などで、数か月〜数年単位の時間がかかる可能性があります
  • 社会全体の受け止め:
    他の医療システム障害やサイバー攻撃のニュースとあわせて、 「医療DXのリスク」がたびたび話題になるでしょう

9. 同様の事例との比較

今回の障害を、最近の事例と比べてみます。

  1. オンプレ型+サイバー攻撃の例

    • 2022年、大阪の大規模病院がランサムウェア攻撃を受け、電子カルテが長期間使えなくなりました
    • 入院患者の情報把握や検査・手術の調整に大きな影響が出ました
  2. 病院単体の電子カルテ障害(クラウド利用・原因調査中)

    • 2025年9月、あるクリニックで電子カルテが一時的に使えなくなり、 「原因が完全にわかっておらず、再発の可能性がある」と案内されたケースもあります
  3. データセンター側の電源障害による停止

    • 2025年7月、新潟県の総合病院で、 システム会社のデータセンターの電源トラブルが原因で電子カルテが停止した事例がありました

今回(2025年11月)の特徴は、

  • クラウド+ネットワーク設定不備+回線の高負荷
  • 複数の医療機関が同時に影響を受けた

という点です。
一方で、サイバー攻撃や電源トラブルなど、原因は違っても、
**「電子カルテが止まると医療現場が大きく混乱する」**という構図は共通しています。


10. まとめ

最後に、ポイントを簡単に振り返ります。

  • 2025年11月、クラウド型電子カルテの障害で、日本各地のクリニックの診療が約3〜4時間混乱した
  • 原因は、通信事業者側の機器設定の不備と、大量の通信流入による回線の高負荷
  • サイバー攻撃や個人情報流出ではないが、**「1社のクラウドと1本の回線に頼りすぎる怖さ」**が浮き彫りになった
  • 医療機関は、
    • 回線・データセンターの多重化
    • 紙運用を含むBCPの整備
    • 患者への情報発信の改善 を進める必要がある
  • 私たちも、
    • お薬手帳や健康情報を手元に残す
    • 障害時に現場が混乱していることを理解する
    • かかりつけ医の「止まったときの段取り」を聞いてみる といった形で、少しずつ「備える」ことができる
  • デジタル化をやめるのではなく、 **「もし止まっても、人の命と生活を守れる仕組み」**をどう作るかが、これからの大きなテーマになっていきます。